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メダカ孵化仔魚を用いた化学物質の甲状腺ホルモン撹乱活性の新規検出法を確立


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◎研究成果のポイント

  • 自発性摂餌開始前のメダカ孵化仔魚を用いた「視床下部?下垂体?甲状腺軸に作用する甲状腺ホルモン撹乱能を有する化学物質」のスクリーニング系を確立
  • 従来法(カエルを用いた変態アッセイ: 21日)と比べて、より短期間(12日)、高感度に化学物質の甲状腺ホルモン作用に対する内分泌撹乱能を検出
  • 本研究による方法は、OECDテストガイドライン(化学物質やその混合物の安全性を評価するための国際的に合意された試験方法)の動物試験に該当せず、動物愛護の観点からも有用なスクリーニング法

1 概要

食品栄養科学部環境生命科学科の小林亨教授(研究代表者)、明正大純(みょうしょうたいじゅん)助教らの研究グループは、自発性摂餌開始前のメダカ仔魚を用いた「甲状腺ホルモン作用に対する内分泌撹乱能(視床下部?下垂体?甲状腺軸:HPT軸に作用する)を有する化学物質」のスクリーニング系を確立しました。本研究による成果は、生態系における甲状腺ホルモン撹乱能を有する化学物質の影響解明への貢献が期待できます。
本研究成果は、米国化学会の国際学術雑誌『Environmental Science and Technology』に2022年4月27日付でオンライン掲載されました。

<論文タイトル>
Preself-feeding medaka fry provides a suitable screening system for invivo assessment of thyroid hormone-disrupting potential
<DOI>
10.1021/acs.est.1c06729
<掲載URL>
https://doi.org/10.1021/acs.est.1c06729(外部サイトへリンク)

2 研究の背景

化学物質による内分泌撹乱問題では、ヒトへの健康影響のみならず、野生生物に対する影響についても広範な研究が進められており、特にエストロゲン作用の撹乱については数多くの報告があります。他方、脊椎動物の甲状腺ホルモン(Thyroid hormone: TH)系である視床下部?下垂体?甲状腺軸:Hypothalamic–pituitary–thyroid (HPT軸)においても数多くの化学物質が作用する可能性が報告されていました。TH受容体に直接作用する化学物質は、受容体遺伝子を用いた転写活性化試験等で検出できますが、HPT軸に作用する化学物質については、カエルの変態現象を用いた評価系:両生類変態アッセイ(Amphibian Metamorphosis Assay: AMA)で検討しているのが現状でした。しかし、評価のための曝露期間が21日間要すること、四肢形成などの形態変化を指標としているため検出感度が高くないこと、そして近年の動物愛護の点から汎用するには制約があることから、これらの問題を解決した新たなリスクアセスメントを行なう為の適切な脊椎動物モデルの確立が喫緊の課題でした。

3 研究の内容

研究グループでは定量的PCR法を用いて個体ごとにmRNAを測定することにより、エストロゲン曝露により発現が誘導されるコリオゲニン(chg:卵膜の構成成分)やビテロゲニン(vtg:卵黄の構成成分)遺伝子の発現は、発生過程(胚から孵化仔魚、孵化仔魚から稚魚)において、エストロゲンに対する濃度感受性が増加すること(より低濃度で応答する)を明らかにしました。さらに、胚から孵化仔魚の発生過程においてエストロゲンに応答するvtg発現はTH依存的であることを初めて見出しました。 
 この孵化仔魚で見られるTH依存性のエストロゲン曝露によるvtgの発現誘導は、HPT軸の異なる過程に作用するTH合成阻害物質(チオ尿素、トリブロモビスフェノールA、ペルフルオロオクタン酸)の曝露によって発現が減少しますが、THとの共曝露によって、その遺伝子発現は回復できます。また、化学物質のTH撹乱活性とエストロゲン活性は、vtgと比べてエストロゲン応答性が高く、TH依存性の低いchgの発現を検出することにより、区別可能です。
以上から、メダカ孵化仔魚でみられるTH依存性のエストロゲンによるvtg発現誘導を用いて、 化学物質のTH類似活性とTH作用の阻害活性を短期間(12日間)、高感度に検出できることを明らかにしました。(図1を参照)

4 本研究成果の意義

本研究で確立した自発性摂餌開始前のメダカ仔魚を用いた「HPT軸に作用する甲状腺ホルモン撹乱能を有する化学物質」のスクリーニング系は、これまでのカエルを用いた方法と比べて、短い曝露期間(12日間)、高い検出感度(リアルタイム法によるmRNA測定)、そしてOECDの提案する動物愛護の点にも抵触しない(自発性摂餌開始前の仔魚)等を満たした新たな甲状腺ホルモン撹乱物質の評価系となります。この方法を駆使することにより、生態系における甲状腺ホルモン撹乱能を有する化学物質の影響解明が期待できます。
本研究は、環境省の「化学物質の内分泌撹乱作用における日英国際共同研究」の一環として行われました。

図1メダカ孵化仔魚を用いたTH撹乱活性の検出

(2022年5月11日)

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