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静岡の大地(21)静岡市葵区井川の湧水 2023年6月7日


 大井川の源流は間ノ岳(あいのだけ)辺りである。間ノ岳は赤石山脈(南アルプス)北部にある標高3,190 mの山である。飛騨山脈にある奥穂高岳と並んで、日本第3位の高峰である。深田久弥の日本百名山の一つでもある。山頂は山梨県と静岡県にまたがり、南北縦走路の約3kmは標高3,000mを連続して超えるため「日本一の標高3,000mの縦走路」と言われている。赤石山脈の最高峰である北岳の南側約3.3 kmに位置し、さらに南の農鳥岳とあわせて白峰三山と呼ばれている。名前の由来は「白峰三山の真ん中の山である」ためとされている。

 古くは湧水のことを「井」と、用水路や流れのことを「井水」と呼ぶから、大井川は「偉大な水」「大きな水の流れ」という意味を持つ。大井川の名は『日本書紀』にあり、江戸時代には全国に知れ渡っていたという。

 大井川は南アルプスの険しい山岳地帯を流下する。流域の平均年降水量は3,100 mmと多雨地域に当たるため、古くから水量の豊富な河川であった。崩落地帯が上流にあるため土砂流出量が多い。このシリーズでは、静岡の大地(6)「大井川鐵道と川根本町の吊橋群」で、上流の井川駅まで行った。

 静岡県のウェブサイトにある「静岡県の湧き水 中部地区一覧」の最初に「奥大井のわき水」が紹介されている。その説明では、「富士見峠から井川湖に下って行く道沿いに、こんこんと湧き出す清涼水。南アルプスの麓、見渡す限り森林豊かなその場所で味わう湧き水はキンと冷たく澄みきっている。ポリタンクに水を持ち帰る人も多く、住民も「うまい水」だと自慢する。奥大井にはキャンプ場や自然体験施設が数多くあるため、家族で大自然を楽しんだあと湧き水を持ち帰るのもいい」とある。

 2022年12月初旬、静岡市葵区井川にある井川生涯学習交流館で、井川小中学校学習発表会が開催された。学習発表会は、2009年頃から開催されており、生徒たちがそれぞれ研究テーマを決め、調査し研究した結果を発表する。その中に9年生の海野要(うんのかなめ)さんの、6年生から9年生まで研究してきた「“湧き水”について」という発表があった。

 海野さんが湧き水を研究するきっかけは、おじいちゃんがお酒を飲む時に、井川の湧き水を使っていたことである。井川の本村から離れた場所にある、明神沢の湧き水をわざわざ汲んできて使っていた。井川には、複数の場所に湧き水があるが、明神沢の水にこだわって使っていたことから、他の湧き水と何が違うのかに興味を持った。6年生の時は、地元井川の湧き水のおいしさと安全性を知ってもらうため、水質検査や飲み比べの研究を報告した。7年生では、湧き水と水道水でお米を炊いたり、豆腐を作ったりして比較して報告した。8年生の時、湧き水を使う人たちの思いを取材して報告した。そして今回、9年生で、湧き水の良さを地域の方以外に知ってもらうため、これまで研究してきた井川の湧き水マップなどを掲載したウェブサイトを作成して発表した。

 ウェブサイトでは、井川地域にある6箇所の湧き水スポットを紹介している。井川の本村、田代、小河内地域、それらの地域よりも更に大井川の上流地域と広域にわたっている。各湧水の写真、各水源の水温や硬度、湧き水の使用例を紹介している。

画像(4枚):ウェブサイト「井川湧き水MAPふるさと井川学習」より(クリックすると拡大します)

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 井川蒸溜所は2020年4月に特種東海製紙株式会社の社有林管理部門であった南アルプス事業部から分社化した十山株式会社が、同年11月に開所した。十山株式会社のウェブサイトによると、「十山(じゅうざん)」という社名には、「社有林内に赤石岳などの3000メートル峰が10座あること、自然環境の魅力やウイスキーをはじめとする商品、サービスなど10を超える極み(高峰)を目指すという想いを込めたこと、また、井川山林に24,430haの社有林を有し、一団地としては国内最大の広さを誇ります。」とある。
 この蒸溜所で用いている湧水が「木賊湧水」で、南アルプスの大自然という熟成環境、ウイスキーづくりに欠かせない樽のための木材資源とともに、南アルプスの森林土壌でろ過されたこの湧き水が最高の仕込み水になると考えたという。原酒を熟成する樽には、この地に自生するミズナラを使用していきたいという。そして、南アルプスの霧がたちやすく、冷涼で湿潤な環境のなかで原酒を眠らせ熟成させる。このように南アルプスはウイスキー造りに最適な環境があるとしてこの井川蒸溜所の仕事が始まった。ここで大きな意味を持っている環境にこの地域の地下水が深く関連していることは間違いない。その場所が今トンネル工事で水涸れの心配のことが議論されている大井川上流の田代ダムのすぐ近くであることを議論の視野におくことが必要ではないだろうか。

空中写真:井川蒸溜所の位置

田代ダムの位置(静岡新聞 2020年6月25日掲載:静岡新聞社編集局調査部許諾済み)

井川と周辺の地形

 あらためて地形図を見ると、大井川の北端には東俣、西俣があり、それらが二軒小屋で合流する。そこに田代ダム湖がある。さらに下流に行くと井川蒸溜所、その南に木賊堰堤がある。さらに下流に行くと、大井川は赤石ダムのある赤石沢と合流する。そして中部電力赤石水力発電所、畑薙橋があり、畑薙湖である。畑薙第二ダム、畑薙第一ダムを経て、割田原縄文遺跡があり、井川湖、湖畔の井川の町並、井川小中学校、そして井川駅である。

田代ダム湖の位置

井川蒸溜所と木賊堰堤の位置

井川小中学校の位置

 井川蒸溜所の見学は、十山の車で迎えてもらい、専用の山道を行くことになる。当日私は別の予定があって参加できず、大学の教職員が見学して取材と撮影をしてくれた。以下は、白樺荘に一泊して視察したその方たちからの報告である。


 梅雨入りの発表の翌日であいにくの天気だったが、十山株式会社の平井さんの案内のもと、朝7時40分に白樺荘をスタートした。沼平ゲートから一般車両進入禁止のため通行許可証を準備してくれた。ゲートに入ると、まずタイヤの洗い場を通過する。外来種を入れないためだと説明を受けた。それからヘルメットも着用するよう促された。だいぶ舗装は進んでいるが、ガードレール、カーブミラー、電柱は倒れていたり、折れていたりしていた。落石も多かった。「東北地方太平洋沖地震の時に落ちてきた石らしいですよ。」とカマクラくらいの大きさの石を指さして教えてくれた。今これが落ちてきたらと思うと早く通過して欲しいと願った。舗装されていない道は、これから徐々に舗装するとのことだった。

2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震の揺れで落ちた岩

 通称、赤崩と呼ばれるところにかかる橋は、橋の下直ぐ近くまで土砂がたまっていた。60分ほど走り続けると椹島ロッジに到着した。このロッジは登山者や工事関係者が使用しており、人の出入りが多かった。また南アルプスみらい財団のベースにもなっており、南アルプスに関する資料の展示がされていた。少しはなれたログハウスには山岳写真家の白旗史朗の写真館があり、ファンにはたまらない場所であろうと思った。そこから15分ほど行くと木賊湧水エリアに入り、「この先私設道路につき一般車両進入禁止」の看板がある。その看板の脇の橋の門を解錠して進むと井川蒸溜所についた。一般車両は禁止だが「管理釣り場」ということで、とくさ堰堤から二軒小屋まで渓流釣りができるようだ。白樺荘から約2時間の道のりだった。


 井川には多くの宿泊施設がある。秋の紅葉や渓流のアマゴ釣りなどに人気があり、各地から人びとが訪れる。宿泊者の中にはJR、山梨県、長野県の職員たちも多く、大部屋で夕食を愉しむ人たちの横で、静岡県のことを話題にして大騒ぎしていたという話を以前に聞いたことがある。辺り構わず悪し様にいう人もいたというが、基本的なことを科学的に考えて大規模工事を実行するという手順を無視していると、さまざまな噂話だけが拡がって、経済活動の悪影響だけが残っていく。その結果が大災害につながったこともあった。そのような社会状況が日本の将来に禍根を残すことにならないように願っている。

井川蒸溜所で多くの樽とともに、井川小中学校の生徒たちが成人するのを待っている樽(3年目から製品となる。ただ今2年半。)

井川小中学校

井川の湧き水はたくさんある。左:諏訪の霊水 右:薬沢井戸

取材をするにあたり丹羽康夫さん、谷晃さん、宮原亜砂美さんのご協力をいただきました。また、下記のウェブサイトなどを参考にした。

尾池 和夫



参考URL

井川湧き水MAP ふるさと井川学習
https://pc-edu.info/ikawa/

静岡県「静岡県の湧き水 奥大井のわき水」
https://www.pref.shizuoka.jp/kurashikankyo/suido/suishigen/1002662/1046117/1046152.html

井川蒸溜所
https://juzan.co.jp/contents/ikawadistillery/

井川小中学校
https://ikawa-e.shizuoka.ednet.jp/

静岡市「南アルプスユネスコエコパーク井川自然の家」
https://www.city.shizuoka.lg.jp/052_000006.html

一般財団法人ダム協会「田代調整池第二ダム」(田代ダム)
http://damnet.or.jp/cgi-bin/binranA/All.cgi?db4=1149

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